2013年公開のスペイン映画、マジカル·ガール ( 原題 Magical Girl )を amazon prime video で見ました。
調べてみると公開当時、結構話題になった映画だったようで、なるほど確かに面白い作品でした。(但し鬱展開有)
タイトルに惹かれ観た映画で、予想とは全く違うものでしたが、良い意味で期待を裏切ってくれたものでした。
視聴後、頭に思い浮かんだのは、アニメの 魔法少女まどか☆マギカ(以後 まどマギ)のことで、その まどマギを基に作られた 人間ドラマ、という感想をもちました。
まどマギは2011年の日本の大ヒットアニメで、ワールドクラスの影響力を持った作品でした。
今回の映画は、よく言われる日本アニメや魔法少女というジャンルからの影響というよりは、
明らかに まどマギ からの影響が色濃く反映されています。
願い事を叶えることと引換えに魔法少女になる、というまどマギ的な導入からこの映画はスタートします。
女の子にとっては、願いごとを叶えることと同じように、
魔法少女になることも 良いこと になるかと思いますが(子供にとっては許される願い)、
まどマギ やこのマジカル·ガールでは、魔法少女になるということに、願いごととは決して釣り合うことのない代償を与えるのです。
更に、魔法少女の候補者は不幸な身の元にあるケースが多いのですが、
今回の登場人物のひとり、アリシアも日本の魔法少女のアニメが大好きな12歳の女の子ですが、白血病で余命宣告を受けています。
アリシアの父、ルイス(父子家庭)はそんな彼女のために出来ることを探している時に、彼女の 願いごとノート を見つけます。
願いごとの一つ目は、誰にでも変身できる
二つ目は、魔法少女ユキコ のドレス(架空の日本アニメ)
と可愛い絵やカラフルで女の子っぽい装飾を施したノートでした。
3ページ目はまだ途中のようで、13歳になる、という文字だけが書かれていました。
このノートを見たルイスは、娘のために魔法少女ユキコのドレスを買ってあげたいとネットで調べるのですが、
何と、70万円のデザイナー物で、失業中のルイス(元文学教師)には手の届く買い物ではありませんでした。
同じ時間軸で登場する主要人物 バルバラ は、美人だけれどもどこか影がある女性。
彼女と夫(その後友人たちとも)の会話シーンがあるのですが、
そんな会話の中から彼女は精神病患者、夫は精神科医とわかります。
束縛された生活、睡眠薬漬に苦しむ彼女は、夫と揉め家を出ていかれた夜に、ハメを外し酒を飲み過ぎて窓の外に嘔吐してしまいます。
彼女のアパートの部屋の下階は宝石店なのですが、
ちょうど宝石店のショーウインドウを壊そうとしていた強盗の男に、彼女の嘔吐物がクリティカルヒット!(映像がシュール)
なんとこの強盗未遂男はアリシアの父ルイス
アリシアに送る魔法少女ドレスのお金を工面出来ず、強盗を企てていたようですが、
バルバラの嘔吐物を浴び強盗は中止、
バルバラの謝罪から彼女の家に上がり、
バルバラから誘惑される形(?)で一夜を共にしてしまいます。
この時ルイスは本名を隠しペドロという偽名をバルバラに使っているのですが、
会話、部屋の雰囲気からバルバラを金持ちと悟り、行為のあとの彼女が寝ている隙に、脅迫材料を集めるルイス。
そして翌日、もう一度やり直すチャンスをくれた夫が、家に戻ってきてくれたバルバラでしたが、
ルイスから電話があり、バルバラは恐喝されます。
不貞を夫にバラされたくなければ、金を寄越せと。(証拠は携帯にひろってあるとも)
夫に打ちあけられる話ではないので、金策を巡らすバルバラは、以前一緒に仕事をしていた アダ という女性の下へ相談に行きます。
かなりどぎつい風の性風俗の経営者と思われるアダは、
昔バルバラと何らかの確執があったようなのですが、バルバラが望む仕事を紹介してくれました。
バルバラが望んだことは、
挿入なしの仕事
報酬を今週中に前借り出来ること
夫が仕事で出かけている間に出来る仕事
ということで、アダ はこの条件を満たす人物、オリベル·ソコ を バルバラに紹介します。
(たった一回きりの、午前中だけで希望額を稼げるという仕事)
翌日、オリベル·ソコ なる人物の大豪邸の広間に立つバルバラ。
車イスのオリベル·ソコはバルバラとの挨拶のあとに、今回の仕事のたった1つのルールを説明します。
渡されたカードには ブリキ(hojalata 西語)という単語が書かれているだけ。
この言葉を発すれば仕事を辞めることが出来るとオリベル·ソコ。
この言葉を発せずにいるだけ、稼げるシステムだといいます。
トカゲの絵が掲げらた不気味な部屋の扉が気になっていたバルバラでしたが、違う部屋に案内されそこへ入っていきます。
実はこのオリベル·ソコとの対面の時に服を脱いでくれと言われています。
裸になったバルバラの全身は酷い傷だらけでどんなに過酷な生き方をしてきたのか、想像を掻き立てられるシーンがあります。
ブリキ の部屋に入ったあともそうですが、
実際何が行われているのかを一切見せず、視聴者の想像力に問いかけてくる手法がとても多い映画ですね。
ブリキの部屋に入った画面の後、20秒程爽やかな風景画面(鳥のさえずり、虫の声入)が映り込み、
続いてルイスとのお金の引き渡しの話に飛んで変わります。
バルバラは問題なくお金を得たことが分かります。
トイレで得たお金を確認するルイス。
もう二度と脅迫しないとバルバラに言っていたルイスは、やっとの思いで魔法少女ドレスを手に入れ娘アリシアにプレゼントするのですが、
何かが足りないのかアリシアはドレス以外の何かを探しているように見えます。
アリシアは父に迷惑をかけられないと探すことを辞めましたが、父のルイスは足りない物は何かと調べたところ、
魔法少女のステッキが別売で、ドレスの3倍弱の値段だと知り、(200万くらい)
苦悩の末、もう一度、あと一回だけ、バルバラを脅迫することにします。
二度目の恐喝を受けたバルバラは、おかわりを迫るルイスを責めますが、結局また、アダの元へ相談に行きます。
以前の3倍程の金額を明日中に稼ぎたいというバルバラでしたが、アダにそんな仕事はないと拒否されます。(明日のアリシアの13歳誕生日にお金が必要だから急いでいたのでしょう)
アリシアは気になっていた トカゲの部屋 に入れば稼げるのでは、とアダに問うも、
あそこには絶対入ってはいけない、という雰囲気のアダ。
何かあった時のために、オリベル·ソコの運転手から連絡先を聞いていたバルバラは、アダとの交渉決裂後に、
直接運転手に連絡を入れ、明日トカゲの部屋に入りたい旨を伝えます…
果たしてバルバラはトカゲの部屋に入ってお金を得ることが出来るのでしょうか。
ルイスは明日迄にお金を強奪して、不治の病の娘アリシアが望む物をプレゼントすることが出来るのでしょうか。
実はこの物語にはもう一人の主要人物、ダミアンという元数学教師がいます。(ダミアンといえばオーメンを想起する人が多いかも)
この映画の本当の冒頭シーンに出てくるダミアンは、どんな状況下にあっても2+2=4 という真理は不変である、と生徒に授業しているのですが、
見た目からも生真面目さが滲み出たダミアンは、
ナポレオンがスペインを占拠してフランス語で授業をしていたとしても、2+2=4 という真理は変わらないと、授業を続けています。
実はこれはバルバラが少女時代の頃の過去の授業のシーンになります。
このシーンの少女バルバラは教師ダミアンを小馬鹿にする態度を見せるのですが、(仏頂面で残念な顔と)
ダミアンはバルバラをこの頃から苦手としており、映画では触れられていないですが、苦手としながらも彼女のため(彼女のせい?)に刑務所にいた事実もあるようで、
バルバラを主とする主従関係のようなものがそこには見えます。
刑務所を出て年をとったダミアンは彼女を避けてきたようですが、
結局は彼女との不思議な関係を終わらせる事ができず、彼女から金を巻き上げたルイスと接触していくことになります。
ダミアンの話もここで止めますが、
ダミアンがバルバラ、ルイスらとどう向きあっていくのか、そちらの方面からも楽しんで頂ける作品だと思います。
とんでもない結果に終わる映画なのですがね。
そして、鬱展開がありますのでその部分はお気をつけていただければ、エロ、グロなシーンの映像は無いので(想起させるケースは多いけれども)、安心して見れる映画かとは思います。
レンタル、サブスクで是非ご覧になっていただきたいですね。
この映画の見どころについては、
やはり日本のアニメ、まどマギ がもつ鬱性、不条理をベースにして作られた作品だという部分と、
たくさんの伏線がありパズル解きをしているような感覚に陥る楽しみがあることですね。
例えば登場人物の名前などを見てみると、多くがキリスト教がらみですが、バルバラ側の人名は東方正教会がらみが多いのかなぁと。
つまり、
バルバラ、ダミアン、アダなどは東方正教会側で、
まどマギの悪である魔女サイドのグループに属し、
そしてバルバラは ワルプルギスの夜 という魔女のラスボスに見えます。
序盤で鏡を額で割り出血するシーンがあるのですが、額を鏡に押し付けて割りきる怨念の強さ、
その額の出血の傷痕が、新たな目を得たようで、正に魔女という感じ。
彼女を魔法少女とみる意見が多そうですが、やはりワルプルギスの夜 が彼女にピッタリな気がします。
ですからバルバラサイドは魔女として、
一方、魔法少女側は、ルイス(偽名ペドロ)と、未完の魔法少女アリシア。
ルイスの偽名ペドロは、キリストに従った使徒ペテロのスペイン読み。カトリック教会の初代教皇。
そしてマタイ受難曲のペテロでもあり、ペテロの否認とルイスの所業がダブります。
こう見ると カトリックと正教会の対比構造ともとれそうです。(米と露ともとれ)
他にも対立する構図はたくさんあります。
文学教師ルイスと 数学教師ダミアン
体の病気アリシアと 心の病気バルバラ
精神科医のバルバラ夫 と 心の病気バルバラ(夫婦だが自由が欲しいバルバラと対立している面も有)
表裏一体のような対比で成り立っている面白い設定ですね。
オリベル·ソコの場面で話した ブリキとトカゲの部屋も、
空洞化しているブリキは中身のない外皮でしかなかなく、挿入を許さないのだから完全な外側、skin(肌)(コート 外套かも)
トカゲは血肉 fresh and blood
予想ですがブリキは皮膚を痛めつけるもの(SM的な何か)、トカゲは肉体を内部から痛めつけるもの(想像がつかないけど)、なんて考えてしまいます。ちょっと安易かもですが。
キリスト教、対立構図、三竦み
こういう読みも、こんな映画では謎解きや検証に役立つのかも知れません。
話が長くなりましたが、この映画の見どころに戻りますと、
映像についても、見るべきところが多く、室内での撮影で鏡がとても気になったり(鏡が映すものが気になる)、
小物や家具、建具の色やデザインも何か引っかかるものが多く、(不自然に感じる)
そして俳優(特に脇役)陣のビジュアルが、独特過ぎる方が数名いて、
やはり まどマギ の不思議なアニメ映像もこんなだったなぁ、と思って見ています。
繰り返しになりますが、マジカルガールは 魔法少女まどか☆マギカ と同様の見どころ満載映画となっています。
是非ご覧になっていただきたい作品ですね。
最後に
冒頭の2+2=4は不変の真理という例の話に、不自然さを感じています。
例示として、普通、2+2=4を使うかなぁ、と。
1+1=2 を使うのが普通の場面であって、そういうシーンは様々な物語で見ることが出来ます。
何か訳があるはずと考えて見た結果、
ルイス、アリシア親子ふたり組と、
バルバラ、ダミアンの教え子教師ふたり組を
混ぜ合わせると、 死(4)を意味する、と予想してみる ちゅう でした。
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