先日、某TV局で故松田優作の特集がありました。最後の出演映画で日米合作のブラックレインに特化したもので、なかなか面白い番組でした。過去似たような番組はあったのですが、出演者が30年たった現在の立ち位置から語る話は興味深いものでした。
特に歳を重ねた敵方の共演者アンディ・ガルシアが語る優作との友情がとても微笑ましく、それを想起させる思い出の写真では、痩せてはいるけれども、ガン末期とは思えない本気の笑顔で、二人の友情の度合いが丸わかりでした。
この番組ではアンディ同様、優作の病気を知る者はいなかった風の話で進むのですが、共演の安岡力也が病気を知っていたというインタビュー記事を以前に読んだことがあったので、ミスリードしてるかな、という感想もあります。
ただこの番組を見て優作の映画を久しぶりに見たいと思えたのでヨシとして、彼の出演作で一番好きなDVDをセットしました。
ちゅう が選んだのは 「野獣死すべし」、評価は割れるのですが、彼の出演作で好きな作品に挙げられることの多い傑作であります。
評価が割れるというのは、制作側の角川春樹が優作の意向が強く出た演技に腹をたてたということで、そのことをインタビューで話していたのですが、制作側の言うことはよく分かりますよね。聞いていたものと違う作品が出来たとなれば怒るのも無理はないと思います。
一方この映画で優作は多くのシンパシーを産み俳優松田優作として、アクション俳優としてよりも、こだわる演技派としての歩みを進めていきます。
優作演じる伊達邦彦はクラシック音楽に興じ、動作、表情のひとつひとつが生気が抜けてるみたいな不自然さ。本来筋骨粒々の彼が、猫背と弱々しさを演じ、痩せこけるために体重を落とし、奥歯を4本抜き挑んだ登場シーン。
この役のために足を切り落とし背を小さくすることと、声質を変えたかったようですが、後に狂気へと繋がることになるこの演技は、完璧と言える出来映えでしたね。

東大卒で通信社で働く伊達はクラシックと文学好きなインテリ青年、クラシックコンサートで隣に座った綺麗な女性華田(小林麻美)に好意をもたれ何か進展するかと思っていたら。
伊達は銀行強盗を計画、大学の同窓会の会場で喧嘩早いウェイターの真田を見つけ、強盗に誘います。伊達は街中で人を殺して伊達の犯罪能力を真田に見せつけます。金が必要な真田は伊達との強盗を決心し銃の使い方を伊達から学びますが、心も支配され真田は自分の彼女を撃ち殺します。(人を殺せば度胸がつくのでしょうか)
ジャックの直前、伊達は銀行に華田の姿を見つけます。それでも伊達は強盗決行、華田を銃殺します。しかもわざわざマスクを外し華田に顔を見せつけて、無表情の顔を見せつけて。
銀行強盗は成功、伊達と真田は電車で逃亡を図ります。がそこに伊達を以前からマークしていた刑事も乗り込んできます。
電車の中でも様々なことが起きるのですが続きは是非映画で見ていたきたいです。この電車の中では刑事役の室田日出夫と伊達の長いシーンがあります。二人のセリフの攻防は見ごたえがあるのですが、伊達が刑事に聞かせる長セリフ、作家アーヴィングのリップ・ヴァン・ウィンクルの話はこの映画で一番有名なシーンになります。
戦場カメラマンというとニコニコした方もいらっしゃいますがこんな人がいても不思議ではないでしょう。彼は通信社で戦場を写し、記者でも行けないような現場の隅隅までをカメラと共に入って行ったと推測します。彼は野獣ですが戦争に壊されたと見ることも出来るのかもしれません。

原作は大藪春彦の1958年の処女作でハードボイルドの傑作。仲代達也主演で同名映画が1959年に公開されましたが、今回の松田優作バージョンは大分アレンジされています。このあたりが冒頭に話した制作側から激怒される一因になるのでしょうが。
原作の方は典型的なハードボイルド作品ですが、優作の方は本来の人間性を隠し少しずつ正体を証す手法をとっているので印象が大分違いますね。狂気、狂人の演出が強いです。
この作品で垣間見る 凄み は確実にブラック・レインでも視ることが出来ます。ハリウッドの大スター、マイケル・ダグラスをも呑み込んだ松田優作の悪役ぶりは彼の死後40年過ぎても銀幕の中で生きています。
松田龍平、松田翔太、優作の息子たちにも優作の意思は継がれ今以上良い俳優になって欲しいです。そして弟、翔太と結婚している秋元梢の父親は横綱千代の富士。松田優作と千代の富士というある意味最狂最恐最強の遺伝子を持つご夫婦の子供さんが、とんでもない大物になるような気がする ちゅう でした。
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