剝がせないレッテル

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数年前までゴロウデラックスという番組がありました。

SMAPの稲垣吾郎を聞き手として小説家をゲストに迎えるバラエティ情報番組でした。

その番組で特に好きだったのが、小説家の書斎スペースにカメラが入るところで、

本棚にどんな本が並んでいるのか、はもちろん、

若い方だと漫画やDVD、音楽CD、趣味が垣間見える物なんかが並んでいたり、

ちょうど ちゅうが見てみたいところに手が届くとても良い番組でした。

深夜時間帯のディープな深堀りしてます感が好きで、大物、重鎮作家よりも若手作家の方が面白かったりしました。

また小説家の書斎は綺麗な方と整理出来ない方のまさに両極端で、

超綺麗好きな稲垣さんのツッコミも魅力の一つでした。

そして、そんなゲスト小説家さんのお話を聞くと、その方の本が読みたくなっちゃう訳で、

あの番組には何冊の本を読まされたことか分かりません。

当然ナビゲーターとしての稲垣吾郎外山アナの力量があってこその話ですが、

どこをとっても非の打ち所のない、パーフェクトな番組で、

タモリ倶楽部の次くらいに番組終了が残念だったかも、っていうほど、

とても好きな番組でした。

そんな番組のゲストに、今回紹介する映画の原作者である 平野啓一郎が出たことがあったのですが、

この時も小説 ある男 の話を番組で聞いて、図書館へ借りにいった記憶があります。

当時、図書館にまだその本がなく、結局日数を少し経た後読むことになりましたが…

Bitly

平野さんの登場回の記憶が少し薄いのですが、

平野さんの原作で後に映画化されることになる、マチネの終わりに の映画化の話で(クランクインの頃?アップかな?)、

福山雅治の役について、稲垣さんが自分がやりたかったとおっしゃっていたので、

いつか平野さんの小説で映像化されていくものの中に、稲垣さんの出番があることを期待していました。

残念ながら今回も出演はありませんでしたが、

いい俳優さんだと思うので、いつかの出演を楽しみにしたいです。


3月に入りAmazonプライムビデオで検索しようとすると、今回の ある男 がちょくちょく顔を出してくるので、

簡単な映画説明を読んでみました。

その時、昔テレビで観たゴロウデラックス平野啓一郎回の時の小説のことだと、初めて解りました。

前述の通り、小説で読んでいましたが、映画化されていたことも知らず、

稲垣さんが出演していないことも、その時点で当然解っていなかったのですが、

好きな小説だったので、視聴することにしました。


今回はほぼネタバレの内容になります。


ある男 は2022年公開の日本映画で、原作は芥川賞作家、平野啓一郎の小説。

Bitly

離婚で宮崎の田舎町に戻る里枝(安藤サクラ)。

昼間は役場努め、休みの時は実家の文房具屋の店に立つ彼女は、小さな息子と年老いた母を支える大黒柱。

雨の日、悲しくて涙する里枝の店番中に、見慣れない男が絵画の道具を買いに来ます。

その男 は、 

その後、たびたび絵画の道具を買いに来るもの静かな 谷口大祐(窪田正孝)で、

心に傷をもつ里枝は、優しく真面目な大祐に惹かれ、

そして暗い過去を匂わせる大祐も同様里枝に惹かれていき、

二人は再婚することになります。(大祐は初婚)

里枝大祐との間に女の子をもうけ、連れ子悠人も父親によくなつき、

家族幸せに暮らしていたのですが、

大祐仕事中の事故で命を奪われてしまいます。


大祐に先立たれた里枝のもとに、縁を切っていたと聞いていた大祐の兄の恭一がやってきます。

恭一は遺影の写真の男は、弟の大祐ではない と里枝に告げます。

話が噛み合わない里枝と義理兄の恭一。

結婚して、子供も産まれ、一緒に幸せに暮らしてきた、

一番知っているはずだった その男 は大祐とは別人だという。

じゃあ あの男 は誰だったのか?

里枝は、離婚調停の時にお世話になった横浜の弁護士、城戸章良(妻夫木聡)に身元調査を依頼します。

確定していることは、夫の名前は 谷口大祐ではないこと。謎の男 “X”であるということ。

“X”の過去を探す(同時に本物の谷口大祐を探す)、

城戸弁護士の物語が始まります。


数年前、大阪で戸籍売買の事件があったことを知り、

戸籍売買の仲介で獄中小見浦(柄本明)という男に面会する城戸。

小見浦は城戸を見てすぐに城戸を在日朝鮮人と見抜き、小馬鹿にします。(実際に城戸は在日で帰化済)

いきなりのヘイト発言に苦笑いも、谷口大祐のことを尋ねますが、真面目に取り合ってくれません。

が、後日、

小見浦は獄中からハガキで 曽根崎 というヒントを城戸に送ってくれます。

初めは信用に値するものか、という思いもありましたが、

全てのピースがハマった時に、極めて大切な手助けをしてくれたことが分かるものでした。

城戸の調査で“X”は、

小林謙吉という殺人犯(死刑囚)の子供であり、 小林誠 が本当の名前ということが分かります。

小林誠 曽根崎義彦 谷口大祐

と2回戸籍を交換していることも分かりました。

(つまり本物の谷口大祐は、現在 曽根崎義彦という名前で生活している


戸籍を交換した人物の素性を追いかけてみると、

悪事を働いたから名前を変えていくのではなく、

社会的弱者が自分の過去を捨て生きていくために名前を変えていることが分かってきます。

本物の曽根崎義彦も、本物の谷口大祐もそう。

殺人犯の息子、小林誠もそう。

殺人犯の息子というレッテルが、どれだけ生きづらい人生となったか、容易に想像できます。

二度の戸籍交換で、新しい土地で谷口大祐としてリスタート、

妻になる里枝と出会い、恋をして、結婚をして、

殺人犯の父親が自分にくれなかった愛情を、

悠人は里枝の連れ子ではあったとしても、

愛情いっぱいで応じた。

レッテルのない里枝や悠人にとって、大祐は殺人犯の息子ではなく、

良き父親でしかないのです。

そういうレッテルを持たされる者同士で、生きるために戸籍を交換してレッテルを外していくのです。

“X”の素性を調べているうちに、

弁護士の城戸も、自分は在日朝鮮人というレッテルを背負って生きていることに気づいた、というのが、

この物語の主題では、と思いました。

そして戸籍を変える名前を変えるという行為は、(国籍も)

今回の物語のように、悪事を働いた人だけがすることではありません

これもレッテル貼りなのかな。


“X”の壮絶な人生を見せる映画と思いがちですが、

軸は“X,”も自分も何も変わらないと、

弁護士の城戸がこの不思議な依頼を通して、ある男 の過酷な真実と、

自分が避けてきた自分自身の出自から存在するものが、

形は違えど同じ種類のものだと、 

自分が調べている男の過去を探ることが、結局は自分探しに繋がっていく、と気づいてしまう話かなぁと感じました。


弁護士の城戸は優秀で真面目な弁護士として、

立派な豪邸、美しい妻、愛する息子と一見何も不満ないかのように描かれていますが、

妻や妻の両親との会話などから、どこかギクシャクしたものを感じます。

実際両親からは、帰化したことを前提で在日を悪くいうシーンもありましたし、

そういうことを自分自身納得させて、得たポジションが、金持ち、弁護士、帰化だったのでしょう。

このあたりは映画で確認いただきたいですね。

城戸がどんな結論にもっていくのかを。


一方、この映画の準主人公的な立ち位置の里枝と悠人の方は、

この悠人くんという男の子のポジションがたまらなく切なく、感情をもっていかれます。

大好きだった父のことを、まだ小さな妹に、いつか俺が話してあげる、と母の里枝に宣言するシーンがあるのですが、

これでこの家族はやっと前を向いて進んでいけると感じました。

この映画がデビュー作となる坂元愛登(サカモトマナト)の今後の活躍を追いかけたくなる、

名演技の家族のラストシーンでした。


この手の話だと、 全力失踪 という原田泰造主演のNHKドラマを思い出しました。

こちらもシリアスな内容ではあるのですが、原田さん演じる磯山という男の人間味を全面に押し出したコメディタッチな部分が、印象的なドラマでした。

離婚で落ち込んでいた頃、このドラマに助けて貰ったなぁといろいろ思い出します。

この手のドラマはシリアスですが、過去を捨て、生まれ変わるという要素は、ある意味希望を見い出す行為とも思ったりします。

そんな思いで見ていたからかも知れないですが。


そういえば、

若い頃、ちゅうも自分の素性を隠して、合コンに参加させられたことがあります。

彼女がいたのにいないとか、

人数合わせで無理やり連れて行かれた時は、妻子持ちなのに彼女はいませんとか。

自分自身から外れて、いつもと違う自分を演じることが、

開放感というか気楽というか、リラックス出来たような気がしました。

あまり良い例えではなかったですが、

自分の重い仮面を剥いで、家族をもった あの男“x”が、

短い期間であっても、とても居心地の良い家族になれたのは、 

“X”が初めて安心できリラックスできる自分の居場所をやっと見つけたという強い思いだったのでは、と考えてみる ちゅうでした。


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