ロスト·フライト

映画・ドラマ・アニメ

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イギリスの詩人 、政治家である バイロン(1788-1824)の 「ドン·ジュアン 」という作品に、

事実は小説よりも奇なり(fact is stranger than fiction)という有名な言葉があります。

SFやホラー、アニメなんかのファンタジーの見すぎのせいだったかも知れませんが、

昔は、事実と虚構の線引がキチンと出来ることが多かったように思っています。

その線を越えることが、虚構っぽいけど事実、

つまり 事実は小説よりも奇なり になったはずです。

その頃は、

虚構度が強ければ強いほど、

正に事実は小説よりも奇なりと、より上級な奇の事実 になっていったものでした。

ところが最近は、

虚構と現実の境界が曖昧ではっきりしないというか、

今まで有り得ないと思っていたことが、

現実に起きたとしてもおかしくない、

そんな時代になっているような気がします。

今は、何が起きても驚かないボーダレスな時代。

こんな時代に生きていると、

事実は小説よりも奇なり という言葉の有難みが薄くなっているように思える今日この頃なのです。


そのせいなのかわかりませんが、

最近、読む小説観る映画のどれもが事実っぽくないというか、

どれもが虚構に見えてしまう病に罹ってしまったようです。

特に映画やドラマは、演出の問題なのかもですが、

ほとんどのものに現実っぽさを見い出せなくなっている自分がいます。

これは古いものを観ても思うことなので、

多分私、ちゅうの感覚の麻痺なんだとは思ってはいます。

もともと映画の設定の粗探しは、あまりしないタイプの人間だと思うし…


そんな思いを持ちながら、映画やドラマを観ていた日々、

最近、面白い映画に遭遇しました。

その映画は感覚を忘れていた、

現実にありそう

というドキドキ感を強く感じさせる内容のものでした。

それは、今回ご紹介する

「ロスト·フライト 」という映画でした。


「ロスト·フライト」(原題 Plane)は、2022年の英米合作のアクション、スリラー映画。

俳優は正直ちゅうが知っている人が全くいない映画でしたが、(恥ずかしながら)

適材適所の配役がなされている印象です。

阪神タイガースの近本選手に似た方、藤川球児に似た方が出てきたり、

元サッカーブラジル代表のロナウジーニョに激似の俳優が出てきたりと、

個人的には楽しい部分もありましたが、

ちゅうの知らない俳優ばかりの映画、ということが、

現実的な映画と評価を高めているのかも知れません。

仮にトム·クルーズが主人公であれば、

現実的ということに関していえば、遠ざかっていくような気がしますからね。

さて、

それでは「ロスト·フライト」はどんな映画なのかご紹介していきましょう。


🆘ネタバレ注意🆘

物語の主人公 トランス機長(ジェラルド·バトラー)は、航空会社のベテラン操縦士。

新年初日のフライトは、シンガポールから東京経由、ホノルル。

ホノルルには、たった一人の家族である娘のダニエラが待っており、

フライト後の新年休暇をホノルルで二人で過ごすことになっています。

シンガポール出発前に電話でやり取りする微笑ましい父と娘。

この再会のフライトがとんでもない事件に繋がっていくとは夢にも思わずに…


シンガポールから東京に向かうクルーの中には、

初対面の若い副操縦士 デレ(近本似の香港人)と、

客室乗務員のチーフを務めるボニーがいました。

トランス機長と副操縦士デレの会話から、トランスの陽気さ、デレの穏やかな人柄が見えます。

和やかな雰囲気のパイロット席までやって来た背広組のお偉いさんの指示で

悪天候が予想されるフィリピン上空を無理してでも飛ぶよう指示されます。

(燃料がもったいないから遠回りせず東京まで飛べと 正にブラック企業)

悪天候の他にもう一つの心配事がボニーチーフから知らされます。

それは殺人犯の護送

新たな任務を与えられたトレイルブレイザー119便は、

ちょっとした二つの不安を抱えながら、東京に向け出発することになりました。


総員19名で飛ぶ119便は、

最後尾に座るガスパール(屈強な黒人男性)と、彼を護送する警部補の異様さを感じる乗客がいるものの、

トランス機長の陽気なアナウンスで楽しい飛行機旅の始まりと思った途端に、

乱気流に飲み込まれてしまいます。

高度を上げ機体を安定させてから、機内を巡回するトランス機長。

手荷物が落ちたりしてまだ混乱している乗客を安心させようと言葉を掛けていきますが、

今度は 雷一閃

機体は先ほど以上の衝撃を受け、電源を損失してしまいます。

額を出血したトランス機長は、パイロット席に戻り、

機体の安定、電源の回復、本部への通信を試みますが、全く上手くいかず、

予備電源の残量も減ってきたところで着水の覚悟を決めますが、

目視で島(陸地)を発見、

島に見える直線道路を利用して、強引に不時着を成功させます。


何とか着陸を果たし、顔を見合わせるトランス機長とデレ副操縦士。

やることはたくさんありますが、一つ一つ片付けていこうとトランス。

最初に行ったことは、熱を持った機体からの脱出で、

トランス、デレ、ボニーの連携で生存者全員を安全に移動させます。

更にボニーからの報告で、

乗務員1名と犯罪者を護送していた警部補の合計2名が事故の混乱の中、命を落としたことを知ります。

つまり手錠はかかっているとはいえ、犯罪者であるガスパールの扱いは、

警部補の死により、

トランス機長に託されるたくさんの任務の中の一つとなってしまいます。

何処の島にいるのか分からずに、通信機器も使えずに、

どうやって誰に救出を伝えるのか、

どうやってどのようにして乗客を納得させるのか、

常夏に近いフィリピンで、水、食糧をどのように調達するのか、

問題は山積みです。

ただ、デレ、ボニーの二人が想像以上に動ける人物であることは、

トランス機長には大助かりに見えます。

トランスが最初にやらなければならないことは、連絡手段を得ることでしたから、

乗客のことは優秀なデレ、ポニーに任せることとして、

トランスは、犯罪者ガスパールを連れて、

現地の人間と通信網を探しにいくことになります。


トランスは手錠を外したガスパールと二人で山道を歩きます。

トランスは、厄介ものガスパールをみんなと一緒にするよりも、

自分が連れて行く方が良いと判断、

なんなら、ガスパールが逃げてしまっても構わないという心境に達していると思われます。

ガスパールは、今のトランスにとっては、邪魔な存在でしかなかったのです。


現地の人間を探し、山道を歩く二人でしたが、

トランスの予想通り、ガスパールはトランスの目の前から消えてしまいます。(逃亡?)

一人で進むトランスは大きな廃墟の建物(工場跡?)を見つけます。

人はいませんでしたが、そこで通信網を見つけ、外部と連絡を取ることに成功します。

最初に連絡を取ったのは、トランスの会社トレイルブレイザー

間違い電話と思われ用件を伝えられなかったトランスは、

次にホノルルにいる娘ダニエラのスマホをならします。

父の旅客機不明を当然知っているダニエラは、父に言われるまま話を聞きます。

①119便はフィリピンのどこかの島に不時着したこと。

②生存者がいること。

➂トレイルブレイザーにこの電話の件を連絡してほしいこと。

この電話をしている最中に、トランスは一人の武装した現地人に襲われ格闘になってしまいます。


何とか相手を戦闘不能(死)にしますが、

次にやってくる武装集団の足音を聞き、部屋の中で身を隠します。

慎重に近付いてくる兵士。

もうダメかと思ったその時、

「機長さん?」

というかけ声。

やってきたのは、先ほど行方をくらましていた、ガスパールでした。

ライフル二丁を携え、一丁をトランスに渡すガスパール。

トランスにとって厄介者だったガスパールが、頼もしい仲間に変身した瞬間でした。

ちなみにガスパールは、フランスの外国人部隊で傭兵をしていましたが、

13年前の殺人事件の犯人としてカナダに引き渡されるところだったようです。


廃墟の搜索を進める二人は、三脚に設置されたビデオカメラを発見、

そのビデオカメラの内容を確認してみると、

現地人が外国人を撮影、人質ビジネスをしていることを知ります。

つまり、

フィリピンには少数民族や宗教の分離独立派勢力があるのですが、

彼らが統治する島に不時着してしまったということが分かります。


置いてきたデレ、ボニーらが心配になった二人は、

急ぎで戻るものの、正に彼らが人質として捕らえられるところ。 

ガスパールは、血気はやるトランスをなだめ押さえ付けます。

デレ、ボニーらは人質として連れていかれますが、

航空機で宝物探しをしていた組織の見張りを捕らえ、

組織のアジトの場所を吐かせ、二人で救出に向かうことにします。

(冷静なガスパールがいなければ、ここでトランスも捕まったと予想します)


一方、トランスの娘からの連絡で事態を詳しく知ったトレイルブレイザー社は、

消息不明航空機の位置の確定、

傭兵救出チームの結成、

フィリピン政府への協力要請、

等を準備して、既に救出作戦の準備を始めていました…


乗客の奪回を目指すトランスとガスパールは、分離独立派組織のアジトに侵入、

ガスパールは鈍器で音を立てずに見張りを瞬殺していきます。

あっという間に乗客達が囲われる牢まで侵入、乗客らの解放までこぎ着けるのですが、

ここから大人数で脱出するには、敵が多すぎると冷静なガスパール。

機長であり一番の金づるになるであろうトランスが、オトリとなって、

その混乱の間に盗んだバスで脱出するというトランスの案を実行することにしたのですが…

ここからは、

是非映画を観て確認していただきたいです。

トランスとガスパールはどういう作戦でこの場を乗り越えるのか、

会社が手配する傭兵部隊はいつやって来るのか、

島からの脱出はどのような方法で成されるのか、

殺人犯であるガスパールにはどういう未来があるのか、

是非とも映画でご覧いただきたいです。


この映画の最大のおすすめポイントは、

元MI6である チャールズ·カミングによる緻密な脚本から生まれたストーリーにあると思います。

昔、ロドリゴ·ドゥテルテ(フィリピン)政権時の、イスラ厶教分離独立派のドキュメンタリーをテレビで見たことがあったのですが、

正にその時の映像と今回の映画の映像の世界観がとても近いと感じました。

英国の秘密情報部の出身者の脚本ですから、当たり前ちゃ当たり前なのかも知れませんが、

現実を見せつけられる感覚になります。

他にも、

主人公にランボー的な能力を与えず、

ある意味肉体的には平凡な男として扱うあたりを見ても、

とても現実的なシナリオだと思わされます。

普通の映画なら、飛行機事故の当事者の中に主人公を含め超人が数名はいそうなものですが、

こちらはフランスの外国人部隊のガスパールでさえ、慎重に行動する傭兵として描かれています。

これらが現実っぽさを強めている要素になっています。

そして航空会社側の人間の描き方がバリエーション豊富でとても面白いです。

特に119便クルーの副操縦士デレと旅客乗務員のポニーの働きぶりが素敵過ぎですね。

たかが映画なんですが、二人の仕事ぶりが正しくプロに見えます。

知らない俳優さんばかりと最初に言いましたが、

彼らの見事な演技に、終始驚かされる映画でありました。


🆘ネタバレ注意🆘

この映画の面白さを語るのに、ガスパールのことを触れない訳にはいきません。

犯罪者ガスパールの未来についてです。

皆さんご想像の通り(多分)、

119便の乗客、乗務員は、ぶっちゃけこの島から脱出に成功するわけですが、

犯罪者として護衛の対象であったガスパールは、

カナダでの牢獄生活を選ばず、

島に残る選択をします。(後で一人で脱出することになるはずですが)

トランス機長はこのガスパールの決断を好意的に捉えたと推測しています。

二人で協力して奔走していた時に、

「贖罪は思わぬ場所でなされる」

と司祭者に言われたことがあるとガスパールは告白するのですが、

正に、この反政府の島で贖罪を成したと、トランスは思っているはずだからです。

実は、航空会社が用意した脱出に使うお金を、ガスパールがちょろまかしたというシーンもあるのですが、

飛行機事故で、反政府組織の島に投げ出された乗客や乗務員を救う傭兵の雇われ金と考えれば、

必要経費だと捉えることも出来ると思います。

そういう使い方をするためのお金だったのも事実ですしね。

お金をちょろまかし、牢獄から逃げて、島に残る決意をしたガスパールは、

この行為を含めて、

この悪魔の島で苦しむ人たちを助けることで贖罪が成されたと解釈してあげたくなった ちゅうでした。


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