映画やドラマといった創作物の中には、色々なタイプの主人公がいます。
どこにでもいそうな 普通の人だったり、
一芸のみに突破口を見出す才能型だったり。
創作物であれば、出来る限り人目につくことが大切なので
より人目に付きやすい「アンユージュアル」な存在の主人公が多くなるのは分かります。
ただ アンユージュアルが過ぎると、リアルが弱くなってしまうので
ジャンルによっては、弱点となってしまうものもあるでしょう。
ですから普通の人間ドラマであれば、極端な異端は避けられるケースが多いと思います。
ただ強烈な異端を観て、
(見世物小屋感覚で)とても面白く感じることもあります。
今回はそんな異端が大暴れする作品をご紹介したいと思います。
ルーム·フォー·レント(Room for Rent)は、2019年に公開されたアメリカ映画になります。
🆘ネタバレ注意🆘
片田舎の一軒家。
屋根に掛けられた梯子の下で男性がうつ伏せに倒れています。
数名の検視官が現場検証を進めるなか、
夫を亡くしたおばあさん、ジョイスは茫然と佇むだけ。
周りとの交流があまりなかったため、葬儀で顔をだしてくれたのは親戚1名のみ。
夫の死後は、
散歩をしては、近所の悪ガキ連中に目をつけられて虐められ、
銀行にいけば、亡くなった夫が借金をしていたことを知らされてと、
ジョイスは様々な不安に苛まれます。
ある日、図書館で 官能小説っぽいパッケージの本を一冊借りた時、
この本を借りるのが2回目になるけど借りるか、
と係員に問われたのですが、
この本のハッピーエンドな終わり方が好きだと、屈託のない笑顔で答えるジョイスを見ると
彼女が前向きに頑張ろうとする意思を感じるし、
更に人付き合いが苦手なタイプにはとても見えません。
どうして葬儀に人が来なかったのかが不思議なレベルの明るさをもつジョイスでした。
その図書館の案内掲示板で、ジョイスは一枚のチラシを見つけます。
“B n’ B で簡単にお金を稼ごう”と書かれたそのチラシは
早い話“朝食付きの間借”のことのようです。( Bed and Breakfast )
家に戻ると彼女は、インターネットでB n’ Bについて調べ上げ、
夫が残した借金の返済のために、
“ジョイスとブードルの B & B ”をスタートさせることになります。
ブードルは彼女が飼っている黒猫なので、
「ジョイスおばあさんと 黒猫ブードルの B & B」となるのでしょうか。
“ジョイスとブードルのB & B”の最初の客は、
サラ という若い女性(とその彼氏)で、静かな環境で執筆したいという小説家でありました。
サラの彼氏は、よりプライベートを保てるホテルに泊まりたがったのですが、
ジョイスはアットホームな雰囲気を気に入り、ジョイスのところに決めてくれました。
しかしジョイスは、
サラたちのために手作りクッキーを差し入れするのですが、
ノックもせずズカズカと部屋に入っていき、サラの彼氏を怒らせます。
サラが差し入れを好意的に受け入れてくれたことをいいことに、
私の家なんだからいいじゃない、ぐらいの態度を見せるジョイスおばあさん😅
(ジョイスの方が非常識では)
この件で恋人同士の間でギクシャクしたものが発生してしまいます。
翌朝、一人食卓でぼんやり座っているサラ。
彼氏は、朝食も摂らず一人で出掛けてしまったようです。
サラと ジョイスの朝の何気ない会話から、ジョイスの夫が亡くなったばかりと知ったサラは、
ジョイスを散歩に誘います。
ジョイスの夫が屋根から転落死したこと、子宝に恵めなかったことなど
悲しいお話がジョイスから語られます。
恐縮してしまったサラでしたが、ジョイスは話題を変えサラの小説の話、彼氏との話に振ってくれます。
彼氏の自我が強い性格のせいで 言い争いが絶えない、とサラは告白。
そんな男は嫌い、
と正直に言葉を返してくるジョイスが、死んでしまったサラの母親とダブるところもあり、
ジョイスが母の喪失感を埋めてくれる存在へと変わっていきます。
ところが、
サラの彼氏が ジョイスを嫌い、ホテルの空き部屋を見つけてきたことで話は急転します。
(サラはジョイスの B & Bの方が居心地が良いと反発しますが)
ジョイスはサラを宥め仲裁をはかり、二人をホテルへ行かせます。
残念ですが このままジョイスのところにいれば、更なる険悪ムードになるのは分かりきっていたことでしたから。
サラがいなくなってから、
ジョイスには悲しいことが幾つかありました。
一つはブードルのキャットフードを買ったスーパーでの出来事で
今まで使えたクレジットカードが使えなくなったこと(残金が無くなったためか)でした。
そのため、がま口タイプの財布をひっくり返して小銭を数えることになるのですが、
その時に、
レジの女性も、レジを待つ男性も、迷惑そうに老人を見つめていたことも、ジョイスには堪えたことでしょう。
ジョイスに限らず老人にありがちな可哀想なお話。
そして、そのスーパーからの帰り道、またしても悪ガキ連中にちょっかいを出されます。
口を塞がれたり、身体を触られる完全なるイジメを受けます。
ジョイスは泣きながら家路につくことになりました。
家に戻ると、
ポストには、彼女を変える1通の手紙が入っていました。
手紙の差出人は サラ。
ジョイスを唯一慕ってくれる彼女からの手紙でした。
ジョイスと会えて嬉しかったこと、
ジョイスの率直な意見のおかげで、彼と別れることが出来たこと、
小説執筆の方も順調、
といったことが述べられていました。
サラの手紙が嬉しかったジョイスも、
サラに感謝の手紙を書かずにはいられませんでした。
貸間業について、
オフシーズン向けて長期滞在型の貸間にシフトさせていること、
女性実業家(ん⁉)の如く営業に忙しいこと
を手紙で伝えています。
実際、図書館の告知掲示板に貼られている“間貸し”のチラシを見ている人たちに声を掛け、
直接お客さんを掴まえようとしていました。
ジョイスは声かけ営業で、
“ボブ”というミステリアスでセクシーな若い男を捕まえました。
サラへの手紙の文面で、ボブのことは詳しく伝えられるのですが、
どうやら新しいパートナーが出来たような話をサラにしているようでした。
“こんな思いがけない出会いは運命”とジョイスは手紙に書いています。
ジョイスはボブが滞在するようになってから、
髪を整え、口紅を引き、メイドのようにピンクのリボンをして
ボブも驚くような豪華な朝食を提供します。
コーヒーのおかわりにも目を配り、実行するジョイスは正にメイド喫茶のメイド。
コーヒーの味を確認するのに舐めたスプーンをカップに戻すのには流石に引きましたが😰
どう見てもやり過ぎなレベルでの彼女のメイド業は更に続いていきます。
掃除をするといってボブの部屋に入り、ボブの化粧品を試したり、ボブの歯ブラシを口に入れたりとやりたい放題。
アメフトが好きだという情報を得れば、スポーツ専門の有料テレビを引き込み、見放題にしてあげたりと
ボブのためならと過剰なまでに尽くすのですが、
自分自身の欲望にも忠実に動くモンスターメイドに変身していました。
本気でボブに恋してしまったジョイスおばあさん。
ジョイスが裏でやっていることを何も知らないボブは、スポーツチャンネル導入で大喜び。
更にジョイスをイジメるいつもの悪ガキが、生卵をジョイスの家にぶつけにきた時には、
ジョイスのために悪ガキをコテンパンに成敗するボブは、
ジョイスを守る騎士のように見えてしまう始末。
歪ではありますが ウィンウィンにも見えてくる二人の幸せな(?)関係が続いていくことになります。
少し前に亡くなった夫の扱いにも変化が生じ、
夫の遺骨の壺は、ゴミ箱に捨てられてしまいました😰(新しい男が出来たため)
それ以降は、
着ている洋服もどんどん派手になっていったり、
ジョイスの泡風呂バスタイム中に、バスタオルをボブに持ってこさせたり、
ジョイスの人生謳歌は留まることを知りません。
サラから来た2度目の手紙には、
“新しい出会いってステキね”
と、ジョイスを悦ばす文面が散りばめられていました。
ボブのお世辞や嫌味も、ストレートな称賛に聞こえてしまう無敵なジョイスは、
幸せの絶頂にいるのは間違いありません。

サラからジョイスに電話があり、サラが(泊まりで)遊びにくることになりました。
二人は年の違いはあれど、友人として嬉しい再会を果たすことになります。
そしてジョイスから手紙で聞いていた運命の人ボブとも対面します。
ボブは、スリムで聡明で美人なサラを見て驚いたような表情をみせます。(サラに一目惚れか)
サラの方も想像と違うミステリアスでハンサムな若者 ボブを見て驚くばかり。
サラは、まさかの若い男がジョイスの相手だと、この時知ったのでしょう。
ジョイスとボブの関係の不自然さを確認するべく、
サラはジョイスと二人きりで外食をする提案をします。
ジョイスは3人での夕食を望みましたが、友人たっての願いを聞き入れサラと二人で出かけることにします。
ジョイスが選んだのは、ボブとよく食事をするという“サンダウナー”というお店。
しかしサンダウナーに来てみるとレストランではなく完全なるバー。
サラはジョイスの 嘘 or 妄想 を疑うことになりました。
翌日の夜中、眠っていたサラは物音で目覚めます。
物音の方に向かって行くと立っていたのはキッチンで作業するボブ。
左目に痣ができているので顔を冷やすために氷を割っているところでした。(ボブはいつもケンカ傷が絶えない)
惹かれ合うように顔を近づけ口づけを交わした二人はそのまま男女の関係に落ちていきます。
事が終わると、
そーっと、音を立てずに自部屋へ戻るボブとサラ。
しかし、
ジョイスはベッドの上で、
体育座りの姿勢で怒りに震えていました😱
翌朝、朝食で顔を合わせるサラとボブは微笑みを交わす一方で、
朝食を作るジョイスは超不機嫌😰
サラに渡すオレンジジュースを(わざと)豪快にぶちまけるジョイス。
かなりのお怒り具合が伺えます。
ジョイスにキツく当たられたサラは、隣同士なのに交流のない隣家のおばあさんに声を掛けます。
おばあさんからは、
昔はジョイスと親しかったこと、
ある出来事からジョイスが変わってしまったこと、
が語られます。
その出来事とは、ジョイスが旦那から中絶を強要されたということでした。
赤ちゃんを望んでいたジョイスは中絶後に外部との関係を閉ざし(隣のおばあさんとの関係も)
官能小説のラブラブなハッピーエンド物語の妄想の中で生きてきたのでしょうか。
そう考えると、
今回の人生やり直し的は恋愛活動は、
夫が死んで 初めて手に入れた自由を具体化したものだったのかも知れません。
サラがジョイスの家に戻ると、隣のおばあさんと何の話をしてきたのかを、しつこく詮索してくるジョイス。
孤独で寂しいおばあさんの話相手になってあげただけというサラに対して
隣のおばあさんは信用に値しない人物だとか、夫を寝取っただとか、
嘘か本当かわからない話をするジョイス。
サラは、この家にいることでジョイスとの関係がこれ以上ギクシャクすることを嫌い、
ジョイスの B & Bから去って行きます。
サラが家を飛び出すと同時に、隣家に足を運ぶジョイス。
30年もつきあいのなかったジョイスを再び受け入れ、喜んでくれる隣のおばあさんと、
サラと話をしているところを見て、もう和解すべきと思った、と語るジョイス。
二人は昔のように戻るのかと思っていたら、クッションをおばあさんの顔に押し付けるジョイスは、
体重を乗せた押し付けでおばあさんを窒息死させてしまいます。
余計なことを喋べったということでしょうか。
ボブがバイクで家に戻ってきた時には、数台のパトカーと、隣家の前で号泣(嘘泣き)するジョイスがいました。
大泣きの大家ジョイスを抱きしめて慰めるボブは、
サラの部屋に荷物がないことを問うと、
“もう帰ってしまった”とジョイス。
旦那と復縁して家に帰った、と嘘をつきます。
ボブは納得いかないような顔つきでその場を立ち去ります。
ボブが不在の時に、彼宛の荷物が届きます。
ジョイスは荷物を部屋へ届けると、彼の不在をいいことに、部屋の詮索を開始するのですが…
ちょうどベッドの下を調べている時に、ボブが部屋に帰ってきます。
掃除をしていたというジョイスに
“問題があるのはあなただ ”と怒りをぶつけるボブ。
“サラも色々詮索されたから出て行ったんじゃないか”と強気で続けます。
“あなたたちが寝たからでしょう”とジョイスは反論しますが、
ジョイスはボブからの信頼を完全に失ってしまったようでした。
その後、
ジョイスは病院に行き、
眠れないという理由で、病院で貰える最大量の睡眠薬を処方してもらいます。
信用を失ったジョイスは、トミーという息子を病気で亡くしたという嘘話をボブに聞かせます。
そのトミーがボブにそっくりだったため、自分の子どものように接してしまった、と。
ボブはジョイスを許し(本気では許していない)
その晩二人で夕食を共にすることになるのですが、
お酒に睡眠薬を仕込まれたボブは、深い眠りについてしまいます😱
ジョイスは、ボブの腰に付けられた鍵を見つけ、
ボブが鍵をつけて部屋に保管しているボックスの中身を調べます。
洋服や生活用品ばかりが目に付きましたが、奥の方に袋に入った“白い粉”を見つけます。
ビニールに nose candy(コカイン⁉)と書かれたその白い粉を舐めたり吸引したジョイスは、
眠るボブの頬を撫で回し、シャツのボタンを外していきます。
ズボンのチャックを降ろし、
“子どもじゃないのね”とつぶやくジョイスおばあさん😱
大量の睡眠薬を飲まされ
絶対絶命のボブ…
この後ボブは無事に朝を迎えることが出来るのでしょうか?
(強そうなワイルド男を心配するのは初体験かも😅)
朝を迎えられたとして、ボブとジョイスの関係はどう変化していくのでしょうか、
更に、サラを含めた三角関係はどう変化していくのでしょうか?
ホラー映画やサスペンス映画のような犯罪性のある決着(死)もあり得るのでしょうか?
ジョイスおばあさんの悪事の結末はもちろんですが、
睡眠薬を飲まされたボブの安否も本編以上に気になってしまう この物語の続きは、
是非映画を観て確認いただきたいです。
なんといえばいいのか😅
ホラーやサスペンスの類いの映画なのですが、恐怖のパターンが今まで観たことのないモノで、
似たようなものを挙げるとすれば、ギャグ漫画の世界にありそうな世界観なのですよ。
おぼっちゃまくん とか 稲中卓球部にありそうな感じの…
ソレをシリアスなホラー調のサスペンスに仕上げるという、
この映画は、なかなかの怪作でありました。
ジョイスの不幸な過去やかわいそうな場面を見聞きしているだけに、
彼女だけのせいにも出来ず、
かといって彼女のやる事なす事 共感出来ることはほとんどなく、
嫌悪感ばかりが透けて見える不思議な主人公でした。
そういう意味で
老人と若者の溝が大きくなるような不安も感じてしまう映画ではありますが、
ジェネレーションギャップを煽る作品では決してありません。
年配者が車でコンビニに突っ込んだ的な見方(だから老人は 的な見方) だけはして欲しくない作品ですね。
評価が高い映画とはいえないのですが、観る価値はある映画だと思います。
ジョイス役のリン·シェイは見覚えがあるような方だと思ったら
エルム街の悪夢 を含め、ホラーを中心に結構な数の作品に出られた女優さんでしたね。
とても良い俳優さんだと思いました。
脚本よりも先にキャラクターが生まれた可能性が高そうな作品ですから
こういう存在感が濃い俳優が必要だったのかもですね。
ところで、
この映画の最初のシーンで、ジョイスの夫が倒れている現場が映るんですが、
これって事故じゃなくて ジョイスがおこした殺人だったんじゃないのかなぁ、と映画を見終わってから思いました。
ちなみに、
隣家のおばあさん殺しは、
夫を突き落とす場面を見られていたかも、っていう不安が原因の一つだったんじゃないかと思うんですよね、
結論は出せない話なんですが。
抑圧された結婚生活に自分自身で決着をつけて生まれ変わったと考えると、
物語的に主人公が少しだけ救われるのかなぁと考えてしまった ちゅうでした。
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